院長の雑記帳

【院長の雑記帳 3 】それぞれの事情

医師の指示を受け、そんなことを言われてもなあ・・・ と思った事はありませんか?
患者さんにそう思われているのではないかと、いつも顔色を見ながら話しています。

当院の、リハビリ科指導医の資格を持つ内山医師が、「帰す家の状況や介護能力を知らないと、リハビリの指導は本当はできない。転倒の危険のある人を、全く介護能力のない家に帰すときは、歩かせるリハビリより、ハイハイの練習をさせた方が良い場合もある。」と言っていたのを覚えています。

ある産業医が、海外のある国のある都市で講演し、野外運動の大切さを話し、ジョギングを勧め、講演を終えた後、会場から質問があり、「ジョギングが体に良いことはわかりましたが、都市の治安が悪い中で、ジョギングの途中で強盗に襲われ、命の危険があることを考えると、どちらが良いのか分かりません。」との意見があったとの事です。
それぞれの人には、それぞれ置かれた事情があり、それが分かって初めて、その人にあった対策を相談できると思います。

何度も話しているうちに、意外なことが分かることもありました。
私が、以前、訪問診療をしていた施設で、息子さんの奥さんが、来るたびに、施設の看護師や介護士に細かい注文を付けるので、スタッフは戦々恐々としていたことがありました。

私も何度も相談に乗り、心を開いて話してくれるようになってきたのかなと思ってきたころ、施設の転居の話がありました。そこで息子さんの奥さんが話してくれたのは、
「入居者の娘さん(御主人の妹さん)は、非常に看護や介護の要求水準の高い人で、この人が出てくると、施設と衝突する可能性があり、娘さんの不満を先に施設に伝え、そのことを娘さんに伝える事で回避して来た。こんなことはもう嫌で、次の施設では、代表者は娘さんになってもらい、こんな仕事はもうしたくない。」

それぞれの人には、それぞれの事情があり、口にしづらいこともあると思います。私たちは治療方法をお勧めするだけで、最終的には、患者さん自身の判断です。出来れば、その背後にある事情がお聞きできるのがベストであり、いろいろ伺いながら、ご相談していければと思っています。